お知らせ
2017年05月25日 早期食道癌ESD治療後の食道狭窄に対する細胞シート治療の臨床研究
豊見城中央病院・中頭病院とともに取り組む新規再生医療研究
社会医療法人友愛会 豊見城中央病院
社会医療法人敬愛会 中頭病院
学校法人 東京女子医科大学
社会医療法人友愛会 豊見城中央病院と社会医療法人敬愛会 中頭病院、学校法人東京女子医科大学は、東京女子医科大学が開発した「細胞シート工学」技術の臨床応用を行い、「早期食道癌ESD治療後の食道狭窄に対する細胞シート治療の臨床研究」を開始しました。
東京女子医科大学先端生命医科学研究所ホームページより引用
東京女子医科大学が開発した「細胞シート工学」は日本を代表する再生医療技術であり、既に心臓、角膜、軟骨などの疾患に対する臨床応用が進んでいます。食道再生の領域においてはこれまでに東京女子医科大学、長崎大学で初期食道粘膜癌の前癌病変の内視鏡切除の術後合併症を防止する目的で食道再生医療に臨床応用された後に、現在セルシード社による薬事承認を目指した治験が国立がんセンター他で進行中です。
「早期食道癌ESD治療後の食道狭窄に対する細胞シート治療の臨床研究」概要図
今回、豊見城中央病院及び中頭病院において新たに取り組む臨床研究は、早期食道癌切除後の食道狭窄の治療を目的とした新規再生医療研究となります。早期食道癌に対してESDと呼ばれる内視鏡的一括切除術を施行された後に、食道狭窄の合併症が発症した患者さんに対して、バルーンと呼ばれる食道の拡張術を行った後に拡張の際に生じた裂傷に細胞シートを貼付して食道狭窄の再発生を予防する事を目的とします。早期食道癌治療後の食道狭窄によって頻繁なバルーン拡張術が必要となり、QOLが著しく低下する患者さんも多く、本研究において食道狭窄に対する予防対処策の一つとして適応が示せれば、食道狭窄に苦しむ多くの患者さんに対して再生医療治療を提供できる可能性があります。
豊見城中央病院と東京女子医科大学との間においては平成27年に「友好連携協定」を締結して、食道再生の培養技術の移転を行ってきました。この食道再生に関わる培養技術移転は、今までノーベル生理医学賞の選考委員会を持つスウェーデンのカロリンスカ大学病院に対して実施例があるだけで、培養技術そのものの技術移転を伴う臨床研究としては国内では初となり、全世界においても2例目の事例となります。
また本研究の開始に向けては培養技術の移転だけではなく、細胞を培養する豊見城中央病院から共同研究施設でもある中頭病院へ対しての細胞シートの輸送実験や、実際に細胞シートを内視鏡を用いて扱う医師の研修等も各施設で協力して取り組んできました。
テスト培養された細胞シート 内視鏡を用いた細胞シート貼付実験
平成28年11月に、「早期食道癌ESD治療後の食道狭窄に対する細胞シート治療の臨床研究」の再生医療提供計画を特定認定再生医療等委員会に提出し、同委員会による審査ならびに九州厚生局への再生医療提供計画の申請が平成29年3月に完了しまして、今回の発表に至る事となりました。豊見城中央病院においては国家戦略特区の制度を用いた再生医療の専用病床も整備されており、本研究は同制度を用いて実施する最初の取り組みとなります。再生医療の実用化が進む中で、優れた再生医療を国内外の多くの患者に提供する「拠点」の形成が求められており、沖縄県がアジア地域を含めた再生医療の本格的な普及を推進する有力な臨床拠点となるように、今後とも研究を進めて参ります。
~細胞シート研究開始記念講演~
日時:平成29年5月24日(水)18:00~19:00
会場:豊見城中央病院5Fホール 演題:「細胞シート再生治療の現状と未来」 演者:東京女子医科大学 先端生命医科学研究所所長 清水達也 教授 |
2017年05月02日 「がん患者の就労継続及び職場復帰に資する研究」開始
東京女子医科大学医学部衛生学公衆衛生学第二講座 遠藤源樹助教を研究代表者とする、厚生労働科学研究費(がん政策研究事業)遠藤班「がん患者の就労継続及び職場復帰に資する研究」が平成29年度からスタートすることになりました。遠藤助教は、日本で初めての「がん患者大規模復職コホート研究」を実施し、新聞、ビジネス誌等のメディアに多数掲載され、国会議員、行政等に積極的な情報提供を行い、Journal of Cancer Survivorship等の学術誌に受理されるなど、「疾病と就労の両立支援」に関する第一人者として、研究・社会活動を実践されています。
『疾病等と就労の両立支援』
~がん等になっても、より多くの方々が働き続けられる社会を目指して~
『疾病等と就労の両立支援』
~がん等になっても、より多くの方々が働き続けられる社会を目指して~
衛生学公衆衛生学第二講座
遠藤源樹
1.『疾病等と就労の両立支援』の現状遠藤源樹
今後50年で、労働人口が半減化することが見込まれている日本において、「疾病と就労の両立支援」は、極めて重要な課題です。政府は、「働き方改革」の一つとして、「がん対策基本法改正(2016年12月)」「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン(2016年2月)」など、「より良い両立支援のかたち」を作り上げるべく、様々な施策等を実施しています。
日本の新規のがん患者は年間約100万人で、就労世代(一般的には、20歳~64歳)はその3分の1であることが推定されています。がんは依然として、生死にかかわる病である一方、医療の進歩などにより少しずつ治癒が可能な病になりつつあり、内視鏡治療などの身体への負荷が少ない治療などにより、がんになっても就労できる状態を維持できる方が少しずつ増えてきました。就労世代のがん患者が増加していることは、少子高齢化に悩む先進国共通の課題です。
欧米(特にオランダ、米国)では、がん患者の就労に関する多くのコホート研究が実施されてきた歴史がありますが、日本においては、今まで断片的なアンケート調査等しかなく、がん患者の就労に関するエビデンスが皆無に近い状況でした。
2.日本で初めての『がん患者の病休・復職コホート研究』
遠藤は、日本で初めてがん患者の就労に関する大規模なコホート研究を実施し、がん患者の就労支援に関する具体策を社会に発信してきました。遠藤の大規模コホート研究によると、フルタイムで復職するまで要する療養日数の中央値はがん全体で201日(約6カ月半)、短時間勤務を含めると80日(約2カ月半)という結果でした。病休日数はがん種ごとに大きく異なり、「がん種ごとの復職までかかる平均日数」は、胃がん124日、前立腺がん等124.5日、大腸がん136.5日、乳がん209日、白血病などの血液系腫瘍は、フルタイムで復職するまで1.5年間を要していました。累積フルタイムでの復職率は、がんの種類により2極化し、顕著な差を認めていました。前立腺がんなどの男性生殖器がん、胃がん、子宮がんなどの女性生殖器がん、乳がん、大腸がんなどは、企業が1年待てば、3人中2人がフルタイムで復職できていました。
復職したがん患者のうち、「短時間勤務が望ましい」:「フルタイムで復職可能」の産業医判断の比率を比較すると、前者の数が後者に比べて3.5倍、つまり、多くのがん患者において、復職時に短時間勤務が必要な状態と多くの産業医が判断していたのです。特に食道がんと胃がんは、フルタイム勤務が難しい場合が多く、その理由として、食事量が減少し、手術後数年以上、体重が手術前の5~10kg減ったまままにあるなど、体力がなかなか回復しないことが考えられます。
がん患者の就労を阻害する因子として、がん治療などに伴う体力低下・身体のだるさ(がん関連疲労:Cancer-related Fatigue(CrF)、いわゆる体力低下)、痛み、食欲不振、嘔吐などの身体の症状だけでなく、メンタルヘルス不調、睡眠障害、心理的苦悩などの心の症状など、様々な要因が考えられます。特に、がん関連疲労(CrF)は、がん罹患社員の復職・就労継続の最大の阻害要因であり、療養日数の延長、復職率の低下、復職後の就労継続率の低下を引き起こし、特に骨髄移植、高用量の抗がん剤等を行うと著しい体力低下をきたしやすいことが海外のがんサバイバーシップ研究で知られています。
3.『がん患者の就労継続及び職場復帰に資する研究』遠藤班の挑戦
遠藤班「がん患者の就労継続及び職場復帰に資する研究」では、「がんと就労の変わらぬ日本の現状」を突破すべく、平成29年度から研究事業がスタート致しました。日本で唯一のがん患者の復職コホートデータベースを用いた『①がんと就労のエビデンスブック』の作成、がん患者における主治医・医療機関と企業・産業医等の間の効果的な連携ツールとして、『②がん種別就労支援ガイダンス(主治医・医療機関向け、患者向け、企業・産業医向け)』と、『③がん種別健康管理指導事項連絡カード(がん健カード)(母性健康管理指導事項連絡カード(母健カード)のがん版)』を、様々な専門家(医療機関委員、がんの専門家、企業委員、患者・市民委員、法律家、海外のがんサバイバーシップの専門家等)の意見を勘案の上作成し、社会に発信します。遠藤班が作成する『①エビデンスブック』『②就労支援ガイダンス』『③がん健カード』が、医療機関と企業等との連携をより具体的かつ効果的に協働させ、より多くのがん患者が就労継続できる社会への第一歩になると確信しています。
今後、「がんと就労」だけでなく、「脳卒中と就労」「心筋梗塞と就労」「妊娠と就労」「育児と就労」「不妊治療と就労」など、『医学的な様々な状況で一時的に働くことができなくなっても、復職できる社会に、そして、就労を継続できる社会』になるように、研究者の一人として努めていきたいと思います。