お知らせ
2016年06月17日 スマート治療室『Hyper SCOT』プロトタイプが完成
6月16日、本学先端生命医科学研究所は日本医療開発研究機構(AMED)共にスマート治療室最終目標モデル『Hyper SCOT』プロトタイプの完成を発表しました (SCOT: Smart Cyber Operating Theater)。
「スマート治療室」は本学先端生命医科学研究所先端工学外科学分野 村垣善浩教授と岡本淳講師らが、13企業と5大学とAMEDの支援で開発を行っている未来型治療室です。各種医療機器をパッケージ化し、さらにネットワーク化することにより、治療現場、治療支援、管理部門がそれぞれ収集する情報を効果的に連携させ、手術の進行や患者さんの状況をリアルタイムに統合し把握しようとするものです。
治療現場で使用される様々な医療機器は、患者の状態をリアルタイムでモニタリングするもの、患部の状態を診断するもの、治療を行うもの、さらには手術者の動作等を補助・支援するものなど、機器毎に様々な種類の情報を収集・提供しています。
<記者説明会の様子>
こうした情報は、治療現場外のサポートにも共有されることで治療の精度や安全性が高まることが期待され、さらには、ビッグデータとして管理することでより高度な解析も可能となります。また、保守・管理の面でも、単純な操作ミスの防止やコスト管理に大きなメリットをもたらします。
実際に使用される医療機器は製造者が異なるとそれぞれに仕様も異なり、それらを連携させることは困難です。一方、治療現場よりもはるかに多数・多様な作業機器が存在する工場の現場では、それらを統合的に制御・管理するためにソフトウエアを有効に活用しています。
本プロジェクトは、こうしたソフトウエアを医療機器の連携・接続にも活用することを目指し、治療に及ぼす影響を十分に考慮しながら、医療機器に適用される各種の規制への対応の必要性についても検討を進めています。
このたび、「最終目標モデル(Hyper SCOT)」(プロトタイプ)が本学先端生命医科学研究所に、また、「基本仕様モデル(Standard SCOT)」が広島大学病院(脳神経外科栗栖薫教授 斎藤太一助教)に完成しました。本学では各種医療機器の連携・接続の実証、広島大学病院では、実際の患者への運用についての検証を開始します。
「外科医の新しい『目と脳と手』を作るというのが我々先端工学外科のmoonshot(壮大な挑戦)で、それを具現化するのがSCOTです。イメージとしては、内視鏡が人の体の中に入って胃や腸の病変を見つけて治療するのに対して、SCOTはその反対に、人がひとつの医療機器の中に入って病変を可視化して治療を行うものです。言わば『medicine4.0』の世界がこのSCOTで広がるのです」と、村垣教授は記者説明会でコメントしました。
2016年06月16日 カナダ科学大臣来訪
5月19日(木)カナダのカースティ・ダンカン科学大臣が、本学に来訪されました。本学からは吉岡俊正理事長、齊藤加代子副学長がお出迎えし、医療人統合教育学習センターと先端生命医科学センター(TWIns)をご案内しました。
医療人統合教育学習センターでは、消化器内視鏡科 中村教授が、カナダCAE Healthcare社製のトレーニングシュミレータをご紹介し、実際にダンカン大臣ご自身にもシュミレータを操作していただきました。カナダ製のシュミレータが医療従事者の技量向上に活用されていることを、大臣は非常に喜んでおられました。
その後、TWInsに移動して、先端生命医科学研究所 清水所長による細胞シート再生医療の研究説明に続き、組織・臓器作製室等の最先端の研究室をご覧になりました。大臣は以前から再生医療に関心を持たれているため、興味深く説明をお聞きになりながら、さまざまな質問をしておられました。また、先端医療機器開発室では、医療安全を支援するための新しい手術システムをご覧になり、医工連携の進歩に驚いておられました。
最後に、参加者の意見交換の場を設け、本学が日本で初めてPBLテュートリアルを導入した際にカナダのMcMaster Universityを参考にしたことや、現在カナダのMontreal Neurological Instituteと交流協定締結に向けて協議中であることをご紹介しました。また、G7伊勢志摩サミットの議題のひとつである女性の活躍推進についても議論が及び、カナダでは医学の分野では男女の割合が等しくなってきているものの、科学技術の分野ではまだ女性のパーセンテージが高くないとご説明がありました。それに対し、女性医療者・研究者育成担当 齋藤副学長から、本学における男女共同参画の取組に関する説明や、女性医師のための特別教育プログラム(彌生塾)を新たに始動したことをご紹介しました。
カナダは、閣僚の半数を女性が占めるなど、男女共同参画とダイバーシティの重要性を強く認識している国です。少子高齢化が進む日本では、経済社会の活性化だけでなく、教育・研究・医療の分野においても、女性の活躍が必要不可欠であるため、今後さらに活発な交流が行われることを期待します。
2016年06月06日 本院小児病棟にウルトラマンがやってきた!
5月25日(水)、入院中の子どもたちを元気づけるため、ウルトラマンエックスが小児病棟にきてくれました。これは東日本大震災直後、円谷プロと賛同企業グループ各社により設立された「ウルトラマン基金」の活動により、本院小児病棟を訪ねていただいたものです。
東病棟3階(この日はほとんどが乳幼児クラスのお子さんでした)では初めて見るエックスに泣き出してしまったり、お母さんにくっついて離れなかったり・・・でも、ほかのお部屋をまわっている間に慣れてきたのか、「どこに行ったのかなー?」と、後ろから追いかけ、最後には自分から握手をすることができました!
東病棟5階、大きいクラスの子どもたちが多かったこともあり、エックスが来る前からみんなソワソワ。一人ひとり自分で作ったお迎え用の旗を持ち、エックスのバイザーをかぶり、盛大にお迎えしました。ウルトラマン体操をみんなでおどったあと、嬉しそうに記念撮影&握手をする子どもたち。
格好いい正義の味方に会え、たくさんの元気をもらったことでしょう。
つらい治療をしながらも頑張っている入院中の子どもたちの笑顔を見ることができ、スタッフ一同、とても嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
子どもたちの強い味方、ウルトラマンエックス、ありがとう!!
2016年06月03日 【プレスリリース】精神科医療の普及と教育に対する ガイドラインの効果に関する研究を開始
~ 精神科医への教育を行い、よりよい医療の実践に大きく前進 ~
【本研究成果のポイント】
◆全国20の精神科医療施設が参加する「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究」(EGUIDE研究)を開始
◆精神科領域において治療ガイドライン※1の効果を検証した研究は未だなく、EGUIDE研究は全く新しい試みといえる
◆精神科医に対するガイドラインを用いた教育が行われ、より適切な治療が広く行われることが期待
【概要】
大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授、杏林大学医学部の渡邊衡一郎教授、東京女子医科大学医学部の稲田健講師らのグループは、全国の20の精神科医療施設が参加する「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究:Effectiveness of GUIdeline for Dissemination and Education in psychiatric treatment」(略称EGUIDE研究)を開始しました。EGUIDE研究は、精神科医に対してガイドラインの教育の講習を行い、ガイドラインの効果を検証する研究を行うものであり、本年5月に研究代表施設である大阪大学の倫理審査委員会において承認され、これから全国の分担施設へと研究を展開する予定です。
精神科領域において、治療ガイドライン※1の効果を検証した研究は未だなく、全く新しい試みであると言えます。今後、EGUIDE研究を推進することにより、精神科医に対するガイドラインを用いた教育が行われ、より適切な治療が広く行われることが期待されます。
【研究の背景】
精神科医療においては、薬物療法と心理社会学的療法がその両輪ですが、その実践については、臨床家ごとのばらつきが大きく、よりよい医療を普及させることが必要とされています。
例えば、代表的な精神疾患の一つである統合失調症※2においては、抗精神病薬の単剤治療を行うことが海外の各種ガイドラインで推奨されていますが、日本では諸外国と比較して突出して抗精神病薬の多剤投与が多く、薬剤数が多いことが知られています。2011年の日本精神神経学会においては、統合失調症における多剤療法の問題が取り上げられたシンポジウムが行われ、抗精神病薬の多剤併用率が65%程度であり、抗パーキンソン薬、抗不安薬/睡眠薬、気分安定薬の併用率もそれぞれが30-80%と高いことが報告されました。2014年には、向精神薬の多剤処方に対する診療報酬の減額がなされました。
日本においては、統合失調症の薬物治療ガイドラインが2015年9月に日本神経精神薬理学会より発表されました(図左)。このガイドラインは、精神科領域において日本初のMinds法に則ったエビデンスに基づいたものであり、統合失調症においては抗精神病薬の単剤治療を行うことを明確に推奨しており、学会のホームページにて無料でダウンロードもできます(本も出版)。また、うつ病学会においても大うつ病性障害※3・双極性障害※4の治療ガイドラインを発表(図右)しており、これらも学会のホームページにて無料でダウンロードできます。
このような状況にもかかわらず、まだこれらの治療ガイドラインが十分に普及したとはいえない現状があり、よりよい精神科医療を広めるための工夫が必要であると考えられています。しかし、精神科領域においてガイドラインの効果を検証した研究は未だなく、全く新しい試みであると言えます。
統合失調症の薬物治療ガイドライン(左)と大うつ病性障害・双極性障害の治療ガイドライン(右)
【本研究が社会に与える影響(本研究の意義)】
研究にて講習を行うこと自体によってガイドラインの普及が進み、若手の精神科医に対してより適切な治療の教育が行われ、その結果として、より適切な治療が広く行われるようになることが期待できます。また、教育効果を検証することにより、さらに効果的な講習の方法論が開発され、精神科医および精神科医療にかかわるパラメディカルスタッフへの生涯教育法の開発や、当事者やその家族への教育にもつながる可能性があります。
【特記事項】
本EGUIDE研究は、右図のように全国20施設が参加しています。うつ病ガイドラインについてはうつ病事務局である杏林大学(渡邊衡一郎教授)を中心に、統合失調症の薬物治療ガイドラインについては統合失調症事務局である東京女子医科大学(稲田健講師)を中心に、ガイドラインに基づいた講習内容を検討し、資料を作成しています。講習は、全国9カ所で行う予定となっており、よりよい精神科医療が行われるようになることが期待されます。
【研究支援】
この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「うつ病性障害における包括的治療ガイドラインの標準化および普及に関する研究」(研究代表者:渡邊衡一郎)と「主体的人生のための統合失調症リカバリー支援― 当事者との共同創造co-production による実践ガイドライン策定」(研究代表者:福田正人)の支援を受けています。
【用語解説】
※1 治療ガイドライン
患者と医療者を支援する目的で、臨床現場における意思決定の際の判断材料の一つとするために、科学的根拠(エビデンス)に基づき、系統的な手法により作成された推奨を含む文書。
※2 統合失調症
約100人に1人が発症する精神障害。思春期青年期の発症が多く、幻覚・妄想などの陽性症状、意欲低下・感情鈍麻などの陰性症状、認知機能障害等が認められ、多くは慢性・再発性の経過をたどる。社会的機能の低下を生じ、働くことが困難で自宅で闘病する患者が多いだけでなく、日本の長期入院患者の約70%が統合失調症。
※3 大うつ病性障害
約100人に3-16人が発症する精神障害。抑うつ症状、興味や喜びの減退、不眠、食欲不振、不安・焦燥、意欲低下、罪悪感、思考力の減退などが認められ、社会機能の障害を引き起こす。
※4 双極性障害
約100人に1人が発症する精神障害。躁状態またはうつ状態を反復し、特に躁状態による問題行動やうつ状態による長期休職等により、社会生活の障害を引き起こす。