-免疫染色を中心に-
中皮腫瘍の組織分類(WHO第4版, 2015)
上皮型中皮腫の組織型は多彩である。充実性solid、腺管乳頭状tubulopapillary、索状trabecularが典型的な組織像であるが、微小乳頭状micropapillary、アデノマトイドadenomatoid、淡明細胞状clear cell、移行型transitional、類脱落膜deciduoid、多形型pleomorphic、リンパ組織球様lymphohistiocytoid、小細胞small cellなどもある。多くの上皮型中皮腫は細胞異型が軽度であるが高度の例もある。
上図. HE染色. 上皮型中皮腫.
癌腫との鑑別
上皮型中皮腫の診断には、免疫染色により中皮腫の陽性マーカーと陰性マーカーを検討し、癌腫ではないことを確認する。
陽性マーカー(中皮のマーカー)
陽性マーカーとして、感度、特異度の高いcalretinin、WT1、D2-40を用いる。
陰性マーカー(癌腫のマーカー)
CEAはもっとも有用である。その他、MOC31、Ber-EP4、BG8、claudin 4などを用いる。
上皮型中皮腫は細胞異型が軽度であることが多く、反応性中皮は高度の異型性を示すことがあるので、その鑑別は難しい。上皮型中皮腫はEMA、Glut-1、CD146、IMP3などが陽性となり、デスミンが陰性となり、反応性中皮はEMA、Glut-1、CD146、IMP3が陰性となり、デスミンが陽性となることが報告されている。しかし、これらの結果は全例に当てはまるわけではなく、その結果だけで中皮腫と診断することはできない。
上図左. 反応性中皮. 気胸に伴った中皮の増生であるが、EMAが陽性である。上図右. 上皮型中皮腫.
中皮腫はfluorescence in situ hybridization (FISH)によりp16/CDKN2Aの欠失を認める。p16/CDKN2A の欠失の頻度は組織型によって異なり、肉腫型ではほぼ100%に認められる。一方、反応性中皮にはp16/CDKN2Aの欠失はなく、FISHによるp16/CDKN2Aの欠失の有無を中皮腫と反応性中皮の鑑別に利用できる。
上図. FISH. Vysis CDKN2A/CEP9 FISH Probe. リンパ球(小さな核)は赤色のスポット(p16/CDKN2A)を認める。腫瘍細胞(大きな核)は赤色のスポットを認めない。腫瘍細胞はp16/CDKN2Aが欠失している。
肉腫型、線維形成型中皮腫Sarcomatoid, Desmoplastic mesothelioma
肉腫型中皮腫は紡錐形の腫瘍細胞が増殖し、束状配列あるいは無秩序な配列を示す。肉腫型中皮腫は胞体が豊かなものから細胞質の乏しい紡錘形細胞まで様々な形態を示す。核異型や核分裂像は目立たないものから顕著なものまで様々である。
上図. HE染色. 肉腫型中皮腫.
線維形成型中皮腫は、肉腫型中皮腫の亜型である。密な膠原線維の増生を伴い、悪性中皮細胞が花むしろ状あるいはpatternless patternを示して増殖するが、少なくとも膠原線維が50%を超えなければならない。
上図. HE染色. 線維形成型中皮腫.
免疫組織化学的には、肉腫型中皮腫は、サイトケラチン(AE1/AE3、CAM5.2等)が様々な程度に陽性となる。肉腫型中皮腫のうちカルレチニンが陽性となるのは約30%の症例で、D2-40はそれ以上の症例が陽性となる。CK5/6、WT1の感度は低い。
肺肉腫様癌との鑑別
胸膜の肉腫型中皮腫の診断には、肺肉腫様癌ではないことを確認する必要がある。肺肉腫様癌もサイトケラチンが陽性で、calretinin、D2-40が陽性になることもある。TTF-1、Napsin A、p63、p40が陽性となる場合は肺肉腫様癌と診断できるが、これらが陰性の場合は、肺肉腫様癌と肉腫型中皮腫の鑑別は困難である。この場合、放射線画像や手術標本により腫瘤が肺に存在すれば肺肉腫様癌と考え、腫瘍が胸膜にびまん性に存在すれば肉腫型中皮腫と考える。
肉腫との鑑別
肉腫との鑑別は、肉腫型中皮腫はサイトケラチンが陽性で、肉腫はサイトケラチンが陰性であり、肉腫の由来細胞に対する抗体が陽性であることにより行う。しかし、肉腫型中皮腫の中にはまれにサイトケラチンが陰性であることがある。類上皮肉腫、血管肉腫、悪性線維性組織球腫、孤立性線維性腫瘍などの中にはサイトケラチンが陽性になることがあるので注意が必要である。滑膜肉腫は,translocation t(X;18)(p11;q11)が存在するため、RT-PCRやFISHによりこの転座を証明することにより診断できる。
上図左. HE染色. 滑膜肉腫. 上図右. FISH. Vysis SS18 Break Apart FISH Probe. 赤と緑のスポットが分かれており、転座が存在する。
二相型中皮腫biphasic mesothelioma
びまん性二相性悪性中皮腫は上皮型成分あるいは肉腫型成分が少なくとも10%以上存在する中皮腫である。
まとめ
小さな生検標本の病理学的所見が中皮腫のように見えても、実際には中皮腫ではないことがある。病理学的に中皮腫のように見えても、1年間経過を見て、画像上腫瘤が認められなければ、多くは中皮腫ではない。逆に、病理学的に炎症性変化のように見えても、数か月後に腫瘤が増大した場合は、再生検で明らかな中皮腫の所見が得られることが多い。中皮腫の診断は病理所見のみで行わず、臨床経過、画像所見、細胞診所見などから総合的に行うべきである。臨床医との対話は重要である。
引用文献
関連サイト
本稿に掲載されている顕微鏡写真などは、個人で使用される場合は、ご自由にダウンロードしていただいた結構です。ただし、公表される場合やリンクをされる場合は、出典を明らかにしてください。
第56回日本肺癌学会学術集会 シンポジウム 新WHO 分類に基づく肺癌および悪性胸膜中皮腫の病理診断の実際 悪性中皮腫の病理診断 -鑑別診断のポイント-. (2015.11.27 於横浜) より
東京女子医科大学八千代医療センター病理診断科 廣島健三
上皮型中皮腫 Epithelioid mesothelioma
しかし、calretininは肺癌、卵巣漿液性腺癌、ライディッヒ細胞腫などでも陽性になることがあり、D2-40は肺癌でも陽性になることがあり、WT1は卵巣漿液性腺癌は高率に陽性になるので注意が必要である。
このようなことから、中皮腫と診断するためには、少なくとも陽性マーカー2種が陽性で、陰性マーカー2種が陰性であることを確認する必要がある。陽性マーカーの1種のみが陽性である場合や陰性マーカーが陽性である場合は、中皮腫の診断は慎重に行う必要がある。
以下のマーカーは中皮のマーカーとしては特異度が低い。
反応性中皮との鑑別
上皮型中皮腫にみられる間質成分は細胞密度が高く、異型性を示すことがある。この場合、間質成分が腫瘍成分ならば二相型中皮腫になる。この鑑別が難しい症例が存在する。