医学部

公衆衛生学分野

概要

衛生学公衆衛生学は、本学創立者の吉岡彌生先生のご子息である吉岡博人先生により1934(昭和9)年に創設され、以来社会全体の健康問題を広く対象とした研究・教育を担っています。2024年からは、公衆衛生学部門グローバルヘルス部門環境・産業医学部門の3部門が集結して、衛生学公衆衛生学公衆衛生学分野となりました。
 
公衆衛生学部門
公衆衛生学という言葉は耳慣れない方も多いかもしれませんが、公衆衛生学とは、公衆(全ての人々)の生を衛る(健康を確保し増進させる)ための学問です。人々の病気やけがを事前に防ぐこと、また基礎医学や臨床医学での知見や技術を広く社会につなげることがこの分野の重要な役割であり、社会医学と称されるゆえんです。日本国憲法第25条では、国が公衆衛生の向上に努めること、医師法第1条では、医師は公衆衛生の向上及び増進に寄与することと記載されています。この学問による研究成果は、保健所や保健センターでの地域保健、母子保健、精神保健、高齢者保健の他、学校保健、産業保健、環境保健、国際保健などの取り組みとして実践されています。公衆衛生学ではこのように幅広い領域に関する研究を、主に疫学的な(集団を対象に、健康に関連するさまざまな事象の頻度や分布およびその要因を明らかにする)手法を用いて実施しています。当部門では、これらの幅広い領域で活躍できる医師の育成を目指して教育を行っており、主に医学統計学、臨床疫学やEBMの教育を担当しています。また、本学設立の趣意である「女性の社会的な地位の向上」に資するため、女性の健康や就労女性に関する研究、医療機関の勤務環境改善に関する研究も行っています。
 
グローバルヘルス部門
当部門は、故白坂龍雄教授が主宰されてきた寄生虫学教室を、寄生虫のみならずグローバルな健康問題に取り組むため、1993(平成5)年の小早川隆敏教授の就任を機に国際環境・熱帯医学教室と改組され、2009(平成21)年には遠藤弘良教授、2016(平成28)年には杉下智彦教授が就任し、フィールドとベンチという二つのアプローチを車の両輪のように調和させてきました。現在では、ゲノム解析から学際的フィールド研究、さらにはグローバルヘルスにおける実証研究や政策研究、社会デザインへの応用など、女性医師のリーダーシップ育成や社会変革を目指した取り組みに発展してきています。
 
環境・産業医学部門
環境・産業医学部門では、環境・産業医学、医療・病院管理学の領域について、教育・研究・社会活動を行っています。
〇 環境・産業医学
環境中にはさまざまな物理化学的要因が存在し、われわれの健康に影響を及ぼしています。近年、地球温暖化やオゾン層破壊などの地球環境問題に加えて、毒性金属、ダイオキシン類、残留性有機汚染物質、揮発性有機化合物や微小粒子状物質などの日常生活の場でも曝露されうる化学物質による健康影響が問題となっています。また、産業現場では、金属や有機溶剤などの有害化学物質取り扱い業務や作業環境・条件による健康影響も懸念されています。生活および労働環境中に存在するさまざまな有害要因に起因する疾病や障害の発症を予防し、健康を保持・増進させ、さらに生活の質の向上を図ることを目的として、環境衛生・産業衛生領域の教育、研究と社会活動を行っています。基礎的研究では、毒性金属などの環境ストレスが生体に及ぼす影響について、シグナル伝達系を中心にモデル動物や細胞・分子レベルで解明しています。
〇 医療・病院管理学
「医療」という観点から日本の現状を鑑みると、増大する医療費が国家財政を圧迫しており楽観を許さない状況です。しかし、このような状況下にあっても、叡智を出し合って人々の健康を守るために適切な医療提供体制を築き上げていくことが求められています。われわれは、医療安全や経営、医療従事者の勤務環境といった医療機関の実務的課題に加えて、地域医療、医療介護連携、社会保険制度、国家財政等の視角から抽出される政策的課題とも向き合いながら教育・研究を行っています。
 

教育内容

公衆衛生学部門
卒前教育では、医学部の第1学年から第4学年までの縦断科目である「AI・データサイエンスと医療」において、生物統計、疫学、EBMの講義・演習を担当しています。
そのほか医学部第4学年(セグメント8)の基幹科目「社会制度と保健・医療・福祉」など、医学教育モデルコアカリキュラムに沿った衛生学と公衆衛生学の講義を行っています。
「AI・データサイエンスと医療」では、医療に関わる各種情報を効果的に活用するために、ICT (Information and Communication Technology)の利用を中心にした情報の収集・整理・統合・分析・選択・検索・発信・提示の実際を学修します。まず、統計学の基礎を学修し、統計データを適確に処理できること、また得られた結果を正確に解釈できるために必要な知識の習得を目標とします。その後、疫学の概念と方法を理解し、これを集団に応用するための基礎的な能力を身につけることを目標とします。さらに臨床実習におけるEBMの実践力を養います。
「社会制度と保健・医療・福祉」では、個人や集団の健康の概念を認識し、健康の保持増進に必要な個人的および社会組織的な取り組みのほか、保健医療に関連する法規や統計情報、行政組織や制度、医療と経済について学び、社会における医療の問題点や対策を考察できることを目指します。
また、「テュートリアル」「研究プロジェクト」「選択診療科実習」「臨床基礎実習」にも携わっています。
看護学部では、疫学(第4学年)の講義を担当しています。
 
グローバルヘルス部門
講義
Segment 学年  講義内容 
S1~S4 1,2 テュートリアル
S1 1 生体防御機構
S2 1 生体と微生物
S4 2 AI・データサイエンスと医療
S4 2 呼吸器系2
S6 3 公衆衛生学
S8 4 疫学
S7 4 感染症系
S7 4 社会制度と保健・医療・福祉
S10 6 領域12
 実習
Segment 学年  実習内容 
S7 4 感染症系(寄生虫学実習)
 
環境・産業医学部門
卒前教育では、医学部第1学年(セグメント1)の基幹科目「人体の成り立ち」と第4学年(セグメント7)の基幹科目「環境と健康・疾病・障害」および「社会制度と保健・医療・福祉」を中心に、医学教育モデルコアカリキュラムに沿った衛生学と公衆衛生学の講義を行っています。
「人体の成り立ち」では、医師を志し、これから医学を学んでいく新1年生に対するイントロダクションとして、人体の内部構造の概要と人体と外部との関わりについて、さまざまな視点から学ぶことを目標としています。
「環境と健康・疾病・障害」では、将来、医師として生活および労働環境中に存在するさまざまな有害要因に起因する疾病や障害の発症を予防し、健康を保持・増進させ、さらに生活の質の向上を図ることができることを目標としています。
また、「産業保健・環境保健・食品保健」/「社会保障制度と医療経済」(セグメント10領域12)、「テュートリアル」、「研究プロジェクト」、「選択診療科実習」、「法学」(選択科目)、「『至誠と愛』の実践学修」を担当しています。
看護学部では公衆衛生学(第3学年)、疫学(第4学年)の講義を担当しています。そのほか、バイオメディカルカリキュラム(環境・産業衛生学)を担当しています。

研究内容

公衆衛生学部門
「労働者を対象としたジョブ・クラフティングに関する調査」に関する情報公開

2016年の医療法の改正で医療機関の勤務環境改善が規定され、その後の医師の働き方改革の一環として、2024年には医師にも時間外労働の上限規制が適用されることになりました。そこで当部門では、単なる勤務時間の削減ではなく、プロフェッショナルである医師自身が適正な勤務時間の中で、自分や自分たちがどのように働きたいのかを明確にし、それを実現させるための勤務改善の方法について研究を行っています。
また、ジェンダーギャップの大きいわが国において、就労している女性の健康やキャリア形成に関する課題を解決することが求められています。特に本学は女性医療人を育成し、女性の社会的地位の向上を目指していることから、当部門でも女性の健康やキャリア形成に関する研究を行っています。
 
グローバルヘルス部門
当部門では、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals;SDGs)の実現を目指して、熱帯医学研究(マラリア遺伝子研究)、地域学際研究(フィールド研究)およびグローバルヘルス研究(国際保健政策研究)を柱に、教育・研究活動を通じて国際的な視野を持った人材を養成し、「命を大切にする豊かな社会」を創造する次世代のリーダーを育成していきたいと考えています。研究内容は、マラリア原虫のゲノム解析、アジア・アフリカをフィールドに分子生物学、公衆衛生学、疫学、社会学、医療人類学などを切り口とした多彩な研究を通して、医療の未来像や社会デザインの在り方について研究およびリーダーシップ教育を行っています。
 
環境・産業医学部門
〇 環境・産業医学
環境要因、特に金属、神経毒性物質や微小粒子状物質の生体影響について分子・細胞レベルで解明することにより、環境ストレスに対する応答や適応機構を明らかにすることを目指しています。特に、細胞内オルガネラである小胞体を介した分子シャペロンなどストレス応答遺伝子の発現変動や「細胞生存と死」の決定に関わるシグナル伝達系活性化の毒性学的意義について、モデル動物であるゼブラフィッシュと線虫、および各種培養細胞を用いて、分子生物学的アプローチによる研究を進めています。
 〇 医療・病院管理学
病院経営に関する研究、医療安全に関する研究、医療倫理に関する研究、医療従事者の労働に関する研究、医事法、医療政策に関する研究を行っています。

スタッフ紹介

教授
野原 理子
専門領域
公衆衛生学
産業医学
女性の健康学

講師(グローバルヘルス部門)
本間 一
専門領域
寄生虫学

准講師(グローバルヘルス部門)
岩下 華子
専門領域
グローバルヘルス
公衆衛生
ワンヘルス

助教(グローバルヘルス部門)
凪 幸世
専門領域
公衆衛生学
社会疫学
熱帯医学

助教(グローバルヘルス部門)
益田 岳
専門領域
文化人類学
熱帯医学
ドローン

准教授(環境・産業医学部門)
蒋池 勇太
専門領域
環境毒性学
発生毒性学

講師(環境・産業医学部門)
中島 範宏
専門領域
医療・病院管理学

講師(環境・産業医学部門)
廣田 恵子
専門領域
環境応答医学
分子遺伝学

大学院

大学院医学研究科社会医学系専攻公衆衛生学分野のご案内

公衆衛生学部門
担当科目など:疫学・医学統計学、臨床疫学・EBM、疫学・臨床疫学集中討論、実験・実習(課題研究)、社会医学系専攻実習
 
グローバルヘルス部門
担当科目など:社会医学系専攻実習
 
環境・産業医学部門
担当科目など:産業医学・保健、環境医学・毒性学、分子・細胞毒性学、実験・実習(課題研究)、社会医学系専攻実習、初期総合カリキュラム(環境・産業医学総論、社会保障・医療経済、病院管理)

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